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【京都市青少年科学センター】

ヨシの生態

 ヨシは,古くはアシ(葦,一部では今でもアシと呼ぶ)とも呼ばれ,沼や湖のほとりや川の流れが緩やかな河原,河口付近の沿岸部などによく生えているイネ科ヨシ属の多年草です。  ヨシは日本だけでなく,世界中の温帯から亜寒帯の大部分に分布していますので,その気候や風土に合わせて色々な亜種や変異があるようです。
 ヨシは,スダレ(簾)やヨシズ(葦簀),茅葺屋根,楽器のオーボエや雅楽に使われる篳篥(ひちりき)のリード(葦舌:ろぜつ)など,様々な場面で使われてきました。(ヨシは英語で「reed」といいます。) ヨシの種類には,ヨシ,セイタカヨシ,ツルヨシと日本では種類分けされていますが,代表的でよく目にするのはヨシなので,以下の文はヨシについてお話します。

生態

 ヨシは4月下旬から芽を出し始め,6月ごろまで急激に成長し,7月下旬の出穂時期まで草丈は伸び続けます。 大体2~3mほどまで伸びるようですが,琵琶湖の湖北では4mのものが,世界には6mになるものもあるそうです。 葉も5月~8月まで大いに茂りますが,7月初旬ごろから下の葉が枯れ始め,10月には枯れ葉の方が多くなり,11月ごろには地上部はすべて枯れてしまいます。

ヨシは見えないところがスゴイんです!

 地上部は11月までに枯れてしまいますが,地下の見えない部分は生きています。
 ヨシは光合成で得た養分を7月下旬ごろから地下の茎(地下茎)に養分を蓄えています。 その養分を使って,地下茎は地面と平行に伸び,その先端から新しい芽が出てきて,次の春に成長します。 花も咲き,種もできるのですが,地下茎で増える方が効率よく群落を大きくすることができるので,あたり一面ヨシで覆われるほどのヨシ原を形成します。
 地下茎の節からはひげ根がたくさん出ているので,地下部分はマットのように地下茎や根が絡み合っています。 乾燥重量で地上部の約2倍もの量が地下部に存在するので,根や茎で砂や泥などの軟弱な地盤を支持しているともいえます。また,根の一部は地下深く伸びていて,250cm以上深く掘っても,まだ根が伸びていたという記録があります。

ヨシは乾燥にも塩分にも酸素不足にも強いんです!

 このように地中深く長い根をもつヨシは土地が乾燥しても,地下深くにある地下水を吸い上げることができるので,水辺の植物の中でも大変乾燥に強い植物です。 また,塩分にも耐性があり,他の植物が生えない汽水域や海の沿岸部分にもヨシ原を形成しています。
 ヨシ原が形成されると,さらに水の流れが弱まり,泥が堆積しやすくなります。 枯れたヨシや動植物などの有機物も流れ出ることなく堆積し,それらを微生物が分解していきます。 この時に,微生物によって酸素がつかわれるので,土壌中の酸素は不足します。 酸素が不足すると細菌などの活動によって植物にとって有害な硫化水素などの物質ができますが,ヨシはこのような土壌でも生きていけるのです。

ヨシは呼吸も多いし,水もたくさん吸い上げます!

 ヨシの茎(桿)の断面をみてみると,中空ですが皮層にも多数の通気管が通っています。 ヨシはこの管を使って葉から取り入れた空気を地下に送り,酸欠の泥の中にある茎や根の呼吸を支えています。 このような酸素を運ぶ仕組みがあるので,水深1mほどの場所までもヨシ原を広げることができます。 そして,酸素の一部を根から放出して,硫化水素などの有害な物質から根を守っています。 春暖かく風の緩やかな日には,ヨシの新芽が呼吸をし,地下に酸素を放出するので,水酸化鉄のコロイド膜が時々現れます。 この膜は春先の田んぼでも注意深く探すと見つけることができます。虫たちが活動を始めると,膜が破られてしまいます。よく油の流出と間違われるようですが,暖かくなり始め,微生物が地面の下で活動しだした証拠なのです。
 また,ヨシが生えてない土地と比べて,ヨシ原のヨシは約5倍の量の水を蒸散させます。(貯水池にヨシは適しません)この性質を使って日本では八郎潟(当時 湖沼面積第二位の湖)の干拓にヨシが利用されました。





  参考資料

神尾 彪,植生による開拓地ヘドロ土壌の改良に関する研究,山形大学紀要(農学)第10巻第1号,1986
吉良竜夫,ヨシの生態おぼえがき,滋賀県琵琶湖研究所所報,1991
布谷知夫,ヨシの地下茎の生態,関西自然保護機構会報21巻2号,1999
前田 修,霞ケ浦への招待 ファイル14§13霞ケ浦の植物,茨城県霞ケ浦環境科学センター,2012
中村元香,根の酸素消費(呼吸)特性からみた水生植物の低酸素耐性機構の解明,第57回日本生態学会東京大会,2010
小山弘道,鵜殿のヨシ原について,鵜殿のヨシ原HP,2013



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