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【京都市青少年科学センター】

塩湖の不思議な生物 「アルテミア」

 アルテミアは,節足動物(背骨がなく外骨格という殻をもつ生物)のなかまで,昆虫やエビ・カニに近い生物です。 (節足動物の中でも,甲殻類,鰓脚綱(さいきゃくこう:あしのつけねにえらを持つグループ)に含まれ,ホウネンエビ・カブトエビ・ミジンコと同じなかまに入ります。)

 魚の養殖場や水族館で他の生き物の餌として利用されることが多く,熱帯魚を飼っている人の中には稚魚の餌として自分で孵化させている人もいます。ところが,こどものうちに餌として利用され,おとなになるまで育てることが少なく,写真のような姿はあまり見られません。

 この生物は,残念ながら日本の自然の中では見られません。アルテミアは「ブラインシュリンプ」ともよばれ,英語でブラインは「塩水」,シュリンプは「小エビ」という意味です。塩水というと海を思い浮かべますが,陸地にある塩水の湖(塩湖)に生活しています。多く見られるのは,アメリカ合衆国のグレートソルト湖やサンフランシスコの湖,フランスのセッテの近くの湖,中国の遼東半島の湖などです。日本でも,海水から塩をつくっていた時代には,塩田で姿を見ることができたそうです。

 こんな小さな弱々しい生き物が,魚たちに食べられて全滅することなく生きているのはなぜでしょうか。実は,塩分濃度(塩水の濃さ)が大きなポイントです。海の水は約3.5%で,この濃度では魚など多くの生物が生きることができます(みそ汁の塩分濃度は約0.8%)。けれども,アルテミアが生活している塩湖はもっと塩分濃度が高く,たとえば,グレートソルト湖では季節や水域によって変動はあるのですが,8~25%です。これほど高い濃度では,他の生き物は生きていることができないのです。かといって,イスラエルとヨルダンの国境にある死海の30%では,さすがのアルテミアも生きてはいられません。

アルテミアは,どんなからだのつくりをしているのでしょう?

 アルテミアのおとなは成体とよび,大きさは約10~15mmほどです。成熟すると雄と雌がつながって泳ぐようになり(写真),時々交尾をします。(前を泳ぐのが雌で,後ろから雌を捕まえるように泳いでいるのが雄です)。交尾をしてからしばらくすると,雌の育房から赤ちゃん(幼生という)が生まれてきます。幼生は約40日で成体になり,寿命は約3ヶ月です。

 アルテミアの祖先は,数億年前の古生代に現れたといわれています。その近い仲間の三葉虫(さんようちゅう)は,2億4500万年前に死に絶えてしまいました。以後,現在まで,多くの生物が誕生しましたが,恐竜(6500万年前に滅亡)のように滅んでしまったものがたくさんいます。つまり,恐竜以前から地球上に現れ,そして現在も子孫が生き残っているわけで,アルテミアは「生きている化石」といわれています。

他の生物は死に絶えてしまったのに,どうしてアルテミアは現在まで生き延びることができたのでしょうか?

 アルテミアは,環境が生育に適しているときは雌の育房の中で卵から幼生になり,幼生として生まれて(卵胎生:らんたいせい)きます。環境が厳しくなる(水がなくなり乾燥するなど)と卵(耐久卵)を生む(卵生:らんせい)ようになり,その卵が厳しい環境に耐えることができるのです。

卵(耐久卵)
大きさ:直径0.2~0.3mm
(方眼の一目盛りは0.1mm)

 日照りなどで成体が死に絶えても,卵は乾燥に耐え,10年でも20年でも生き続けることができるといわれています。これは完全に乾燥しないための物質(トレハロース)を卵に含んでいるからで,現在では食品などの保湿成分として利用されています。つまり,トレハロースが適度な湿り気を保ち,長期間にわたって卵を守っているのです。そして,干上がった塩湖に再び雨が降り塩水がたまると,卵から幼生がかえるということを繰り返して何億年もの長い時間を生き延びてきたと考えられています。

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