京都市小学校同和教育研究会 活動方針

はじめに

 小学校同和教育研究会は,平成19130日(火)に京都市総合教育センターにおいて開催された第21回京都市小学校同和教育研究集会(以下,略称「小同研集会」)を最後に,平成19年度に入り,大きな転換期を迎えることになった。

 小学校同和教育研究会では,活動方針として2本の重点方針・6本の指針を掲げ,様々な取組を重ねてきた。即ち,次の通りである。

【T.同和教育の普遍化を】

 @ 部落差別の現実から深く学ぶ

 A 同和問題解決に向けて,同和地区児童をはじめ,全ての児童に確かな学力を保障する

 B 同和地区児童の自立への意思や能力を高める

 C 保護者自らが教育力の向上を図れるよう支援する

【U.人権意識の高揚と実践的態度の育成】

 @ 児童自ら同和問題をはじめとするあらゆる人権問題に対する認識を深めるための指導の充実を図る

 A すべての児童に同和問題をはじめとするあらゆる人権問題解決への実践的態度の基礎を培う

そこで,「小同研集会」では,同和関係校(後に同和教育部会校)が「同和地区児童の自立への意思や能力を高めるために」,「同和地区児童を中核にし,すべての児童に確かな学力を保障するために」の2分科会で各校の取組を発表し,同和関係校以外の学校が「すべての児童に同和問題解決への実践的態度の基礎を培うために」,「保護者の同和問題をはじめとするあらゆる人権問題に対する認識を深めるために」,「教職員の同和問題をはじめとするあらゆる人権問題に対する認識を深めるために」の3分科会で発表してきた。

さらに,同和教育実践研修会において年間5回程度,「部落史の見直し」や「下京中学校統合に向けての取組」等々,同和問題解決に向けて新たな教育実践・取組の提言や喫緊に解決すべき課題について研修を重ねてきた。

これらの21年間の取組は,同和地区児童のみならず,自らの責任でない様々な制約により,個性や能力が十分に伸ばしきれていない子どもたちの学力保障に具体的にどのような取組をしてきたのかについての実践記録である。さらに,今年度第41回を迎える「京都市同和教育研究集会(以下,略称『市同教』)」,「全国人権・同和教育研究大会(以下,略称『全人・同教』)」と連動し,京都市立小学校の同和教育の進展に大きな成果を挙げてきたと自負できるだろう。

この度,これまでの小学校同和教育研究会の規約第1条「小学校同和教育研究会は市立小学校の全教職員をもって組織し〜」を改正し,新規に会員募集をして研究活動を進展させるにあたり,同和教育の黄昏ではなく,同和問題の解決を目指し,「人の世に熱あれ,人間に光あれ」の志を同じくする教職員が集い,同和教育の確かな芽生えの手応えを実感できる研究集会になることを願ってやまないものである。

 新生「京都市小学校人権教育研究集会(以下,略称『小人研集会』)」では,次の通り「目的」「指針」「取組の重点」を掲げるものとする。

【目的】

 同和問題をはじめ,あらゆる人権問題を解決するための教育を研究推進する。

【指針】

 (1) 同和教育の普遍化を図る

   @ 一人ひとりの子どもを徹底的に大切にした教育を推進する。

A  同和問題をはじめ,あらゆる人権問題解決に向けて,すべての児童に確かな学力を保障する。

(2) 人権意識の高揚と実践的態度の育成

  @ 児童自ら同和問題をはじめ,あらゆる人権問題に対する認識を深めるための指導の充実を図る。

 A すべての児童に,同和問題をはじめ,あらゆる人権問題解決への実践的態度の基礎を培う。

【取組の重点】

(1) 学力保障

               @ 厳しい学力実態を克服するために,効果のある「学力向上プラン」を策定し,効果のある指導法を創意・工夫した授業改善を具体化する。

A 自らの責任でない様々な制約により,個性や能力が十分に伸ばしきれていない子どもたちに焦点をあて,授業の中でその子どもの主体的な努力を引き出し,自己実現に向けた学習を展開する。

() 人権学習

   @  人権尊重を基盤とした同和問題認識を深め,同和問題の解決に向けて主体的に行動できる実践的態度と能力を培う社会科学習を展開する。

   A  同和問題指導をはじめとしてあらゆる人権問題に対する認識を深めるために社会科・道徳・総合的な学習等で人権意識の高揚を図る学習を展開する。

() 自立活動

  @  自立への意思や能力を高めるために「生き方に働く力」,「将来にわたって自己の可能性を磨き続ける力」を個と集団に育てる働きかけを充実する。

  A  学力保障の前提条件として,基本的生活習慣を確立するために子どもと家庭への働きかけを充実する。

() 保護者啓発

  ○ 児童の同和問題をはじめとするあらゆる人権問題に対する認識をより確かなものにするために保護者との連携を強化する。

() 教職員研修

  ○ 教職員自らが鋭い人権感覚をもち,同和問題をはじめとするあらゆる人権問題を解決するための研修を推進する。

 

1.なぜ,学力保障を強調するのか〜一人一人の学力保障を徹底的に大切にする教育の追究

   初めに,新生「小同研」による「小人研集会」第1分科会では,特別施策としての法的措置がすべて終了した後,一般施策に移行する中,各校が一人一人の学力保障を徹底的に大切にする教育をどのように追究しているのか,なぜ学力保障を強調するのかについて明らかにしたい。

昭和44年(1969年)同和対策事業特別措置法制定を遡る5年前,昭和39年(1964年)19日に京都市教育委員会は「同和教育方針」を提示,当時の大橋俊有教育長薫陶のもと,「教育の全分野において,それぞれの公務員がその主体性と責任で同和地区児童生徒の『学力向上』を至上目標とした実践活動を推進する」との文言に集約されている。

   「同和教育方針」提示から40余年,我々京都市立小学校教職員が各校の子どもたちや保護者・地域の皆様と共に同和問題解決に向け様々な教育実践に取り組むよりどころとなっている。昭和53年(1978年)123日に提示された「同和教育の一枚起請文」と併せ,同和教育に取り組む我々の心に深く刻み込まれている。

以降,同和対策事業が展開される間,その後同法の延長・経過措置の間,そして平成14年(2002年)331日をもって特別施策としての法的措置がすべて終了した後においても,「同和

教育方針」は,残された課題解決に向け今日においても同和教育・人権教育に取り組む我々京都市立小学校教職員の志を熱くし,一人一人の子どもを徹底的に大切にする教育理念の根幹であることは変わりない。

   ところで,特別施策としての法的措置がすべて終了したのであるが,国において平成12年(2000年)12月に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(議員立法)」,平成14年(2002年)3月(閣議決定)には「人権教育・啓発に関する基本計画」が策定される中,京都市では平成14年(2002年)5月に「《学校における》人権教育を進めるにあたって」(京都市教育委員会)が提示され,平成17年(2005年)6月には「京都市人権文化推進計画」が策定された。

 そして,「人権の世紀」と呼ばれる現在,国連は全世界における人権保障の実現のためには人権教育の充実が不可欠であるとし,「人権教育のための国連10年」(1995年〜2004年)を実施した。さらに平成16年(2004年)12月に国連総会は,全世界的規模で人権教育の推進を徹底させるための「人権教育のための世界計画」を2005年に開始する宣言を採択した。

 これらの情勢を踏まえ,先述の「人権教育・啓発に関する基本計画」は,様々な人権問題が生じている背景として,人々の中に見られる「同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理的な因習的意識の存在」,社会の急激な変化などと共に,「より根本的には,人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が未だ国民の中に十分定着していないこと」を挙げている。また,学校教育における人権教育の現状に関しては,「教育活動全体を通じて,人権教育が推進されているが,知的理解にとどまり,人権感覚が十分身についていないなど指導方法の問題,教職員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていない等の問題」があるとし,人権教育に関する取組の一層の改善・充実を求めている。

 また,「人権教育・啓発に関する基本計画」では,「人権教育・啓発の推進方策」として,「学校における指導方法の改善を図るため,効果的な教育実践や学習教材などについて情報収集や調査研究を行い,その成果を学校等に提供していく」こと,また,「人権教育の充実に向けた指導方法の研究を推進する」ことを明示している。

 こうした指摘を踏まえ,人権についての知的理解を深めると共に人権感覚を十分に身につけることを目指して「人権教育の指導方法等に関する調査研究会議」が開催され,平成16年(2004年)6月に〔第1次とりまとめ〕が公表された。この中では特に,「自分の大切さと共に他の人の大切さを認めることができるようになり,それが様々な場面や状況下での具体的な態度や行動に現れるようにすること」というように,人権教育とは何かということを分かりやすく示すと共に,児童生徒はもちろんのこと教職員一人一人が人権尊重の理念を理解し,体得することが重要であることを強調している。そして,平成18年(2006年)123日には〔第2次とりまとめ〕が公表された。

   このように,同和問題の解決に向け,いわゆる特別施策から一般施策へと転換され,人権教育めぐる国際的動向・国内動向が変化する中,同和教育,及び人権教育・啓発に関わる指針について見直すことが必要になってきた。

平成19年度,「小同研」集会が新規に「小人研」集会として新たな展開を切り拓くにあたり,これまでの経過を踏まえつつ,改めて子ども達の学力保障を第一に,「一人一人の学力保障を徹底的に大切にする教育の追究」を念頭に各校の教育実践を活性化したいと願うものである。

   そこで,「小人研集会」第1分科会の主題・討議課題を次のように策定した。

◎ すべての児童に確かな学力を保障するために

@ 教育的成果の平等を保障するための取組をどのように実践しているのか

A       厳しい学力実態を克服するために効果のある学力向上プランをどのように策定し,指導法を創意・工夫した授業改善を具体化しているのか

B       自らの責任でないさまざまな制約により,個性や能力が十分に伸ばしきれていない子どもたちに焦点をあて,授業の中でその子どもの主体的な努力を引き出し,自己実現に向けた学習を構築しているのか

 

2.人権意識の高揚と実践的態度の育成を目指す取組の追究

   次に,「小人研集会」第2分科会では,子どもたちの人権問題解決への認識を深めるために,各校が教科・領域の学習を通して,及び校種間連携,PTA・地域との連携を通してどのような取組を展開しているかについて明らかにしたい。

そもそも人権教育を通じて子どもたちに育てたい資質・能力とは「自分の人権を守り,他者の人権を守るための実践行動が取れる力」といえる。つまり,自分の人権を守り,他の人の人権を守ろうとする意識・意欲・態度を育てるために,人権に関する知的理解を深め,人権感覚を磨く取組を通し,どのように人権意識の高揚を図り,実践的態度の育成を目指す取組を各校が具体的にどのように追求していくのかについて明らかにしたい。

人権に関する知的理解を深める点に関しては,知識的側面として次の項目に関する学習が考えられる。@自由・責任・正義・平等・尊厳・権利・義務・相互依存性・連帯性等の概念を主題とした学習。A人権の発展,人権侵害等に関する歴史や現状に関する知識。B憲法,人権関連国内法,「世界人権宣言」その他の人権関連の主要な宣言・条約に関する知識。C自尊感情・自己開示・偏見など,人権問題・課題の解決に必要な概念に関する知識。D人権を支援し,擁護するために活動している国内外の国際的機関,及びNGONPOに関する地域。

これら5点の項目以外にも各校の特色に応じ,色々な人権学習が考えられるが,第6学年社会科「同和問題指導」に関する学習については中核となる教育実践として,子どもたちの主体的な学習が展開できるよう,新規の教材開発,指導法の改善を重視したい。

   そこで,「小人研集会」第2分科会の主題・討議課題を次のように策定した。

◎ すべての児童に人権問題・同和問題解決への認識を深めるために

@ 人権尊重を基盤とした同和問題認識を深め,同和問題の解決に向けて主体的に行動できる実践的態度と能力を培う社会科学習をどのように展開しているのか

A 6学年社会科「同和問題指導」をはじめとして,あらゆる人権問題に対する認識を深めるために,社会科・道徳・総合的な学習等で人権意識の高揚を図る学習をどのように展開しているのか

 

3.子どもの絆づくりを育む自立活動の追究

第3に,「小人研集会」第3分科会では,子どもの社会性の未熟・未発達という教育の欠落,不登校・いじめ,夜型生活の低年齢化による問題等,子どもを取り巻く喫緊の問題解決に関し,表面に現れた行動だけをどうにかしようとする「対症療法」や,問題の解消のみに着目した「治療的発想」による取組ではなく,子どもの自発的な思いを大切にしながら,どのような取組を追究していくのか明らかにしたい。

子ども自身は本来,「他人と関わりたい」「他人のことも考える」「進んで決まりを守りたい」等の,他者や社会に対する「自発的な思い」を子ども自らが自らの内に育んでいくことを願っているが,そうした「思い」が育ちにくくなってきたといわれて久しい。

平成13年(2001年)4月,少年の問題行動等に関する調査研究協力者会議の提言,『心と行動のネットワーク〜心のサインを見逃すな,「情報連携」から「行動連携」へ〜』によると,次のような論述がある。曰く,都市化や少子化の進展やテレビゲーム,パソコンなどの普及により,大勢で遊ぶ,友人と語り合う,他人と協力し合うといった多様な人間関係の中で,社会性や対人関係能力を身につける機会が減っており,学校や地域社会といった本来社会性を育成する場で社会 性が生まれにくくなっているという指摘である。

かつて社会性を育ててきた地域の仲間集団は「少子化」により成立し難くなるのに並行して,小学校そのものの統合も進んできた。今や,「平成の廃藩置県」ともいえる勢いで小中学校の統合が進められるのは地方分権が進んだ結果というより,児童生徒には余りに少数の学校単位では一人ひとりの多様性と柔軟性を育み,子ども同士の絆づくりを確かなものにするには少数過ぎるという可能性の制約があるためであろう。学級・学年の特別活動はもとより,異学年交流,校種

間連携の推進,地域ぐるみの「人間関係力」の構築等の取組と連動して,自立活動のあり方を模索し,今,学校に求められている取組について実践交流を深めたい。

子どもを取り巻く社会情勢が,子どもにとって必ずしも望ましいものとは言えない現在,校区を核に,地域全体がビッグファミリーとなる取組等,新たな視点で自立活動に関する豊かな実践が交流できることを期待したい。

そこで,「小人研集会」第3分科会の主題・討議課題を次のように策定した。

◎ 生き方にはたらく力を育み,自立への意志や能力を高めるために

@ 自立への意志や能力を高めるために「生き方にはたらく力」「将来にわたって自己の可能性を磨き続ける力」をつけるよう,個と集団にどのように育てているのか

A     学力保障の前提条件として,基本的生活習慣を定着させるために,子ども・保護者

・地域とどのような取組を展開しているのか

 

4.子どもの学びと育ちを支える保護者啓発の追究

第4に,「小人研集会」第4分科会では,残念なことであるが,今日においても様々な差別の存在する社会に育つ子どもに対し,家庭やPTA・地域の役割はどうあるべきかについて考えを深め,行動・連帯の輪が広がる啓発の取組を各校がどのように取り組んでいるのかについて実践交流を深めたい。

「人権教育のための世界計画〜行動計画」によると,人権教育とは,知識の共有,技術の伝達,及び態度の形成を通じ,人権という普遍的文化を構築するために行う,教育,研修及び情報であると定義される。

しかし,子どもたちと具体的にどのような学習を展開し,積み重ね,互いの人権が尊重される社会を築いていくのか,そのために子どもは学校でどのような学習に取り組めばよいのか,それらの学習を確かなものにするため,保護者は家庭や地域でどのような支援をすればよいのかについて明らかにしたい。

そこで,「小人研集会」第4分科会の主題・討議課題を次のように策定した。

◎ 保護者に人権問題・同和問題解決への認識を深めるために

@ 児童の同和問題をはじめとするあらゆる人権問題に対する認識をより確かなものにするために保護者との連携をどのように強化しているのか

A 学校・PTA・地域と連携し,人権問題・同和問題に関する研修をどのように展開しているのか

 

5.我々自身の人権感覚を磨き,行動力を高める教職員研修の追究

5「小人研集会」第5分科会では,我々京都市立小学校教職員が個々に各学校現場で,一人一人の子どもを徹底的に大切にする教育理念を貫き,同和問題をはじめとするあらゆる人権問題解を解決するための研修を各校がどのように取り組んでいるのかについて実践交流を深めたい。

特別施策としての法的措置がすべて終了し,一般施策に移行した「端境期」ともいえる今日,我々京都市立小学校教職員がその主体性と責任において,新たな人権問題の内容も包括し研修していること,そして子ども・保護者・地域と共に,同和問題をはじめとするあらゆる人権問題解決のため取り組んでいることを交流し,京都市全体に広がることを願っている。

そこで,「小人研集会」第5分科会の主題・討議課題を次のように策定した。

◎ 教職員に人権問題・同和問題解決への認識を深めるために

@ 教職員自らが鋭い人権感覚を持ち,同和問題をはじめとするあらゆる人権問題解を解決するための研修をどのように推進しているのか

同和問題・人権問題の解決に向け,校内同和研修会だけでなく,各校がどのような研修会を創意・工夫しているのか

 

むすびに

 昭和49年(1974年,中学校は翌年),第6学年社会科の教科書に同和問題指導に関する記述が掲載されるようになり,子どもたちは「山田少年の叫び」について学習するようになった。その山田孝野次郎少年の叫びの原点ともいえる奈良県の掖上小学校での卒業証書授与式〜彼が卒業生総代として答辞を当初型どおりの空虚な言葉を述べていたが,頭の中にこの幾年,学校という教育の場で,同和地区の子どもたちがどんなに侮辱の眼をもって見られてきたかが思い出され,触ればうずくほど痛ましい惨めな記憶がよみがえったとき,謝恩の辞を投げ捨て,憤りを舌端に燃やし「叫び」をあげた〜そして,大正11年(1922年)33日,16歳の時,京都での水平社創立大会以降,命ある限り「叫び」続けた山田少年。

特別施策としての法的措置がすべて終了し,一般施策に移行した「端境期」を乗り越え,我々京都市立小学校教職員がその社会的責務を新たに自覚し,今後どの子も二度と「叫び」をあげることなく,学校で,地域で,社会で,子ども一人一人の主体的な努力を引き出し,自己実現を確かなもにできるよう力を合わせて取り組みを続けて生きたいと願うものである。

 

平成20年(2008年)513