私は,京仏壇・京仏具の職人です。この仕事を始めてから,もう15年が経ちました。まだ,おぼつかない手業で,ご注文をいただいた仏壇仏具の新調や,補修をしています。 父が職人生活を始めてから50年,江戸時代から続いて私で5代目。京都の伝統を誇る匠の業の継承を思えば,歴史は始まったばかりです。仕事場での父の助言はもちろん,先年亡くなった祖父の職人話もようやく理解できるようになり,何よりの励みになっています。 最近,『道具棚』に深い感銘を覚えるようになりました。日頃はそれほど使うこともないのですが,時に,微妙な細工物にかかる時,その力を借りなくてはなりません。 道具の来歴は,中には記録されているものもありますが,その辺が職人の気楽なところで,殆どがいつ頃のものなのかは分かってはいません。父も,まだ使ったことがないという道具もあります。 ところが,不思議なものです。手にすっと馴染むのです。長い間,待っていた。自分からは名乗ることもなく,棚の隅に座っていた。そして,今,私の掌にある。・・始めて使ったのは,祖父だろうか・・? 木目にそって,息づかいのままに,それは『もの』を『かたち』に変えていきます。素直に奔り,屈曲して形を辿り,細工物は容姿を現します。・・このお道具は,何年も前の仕事を記憶している・・ |