〔入賞〕 小学校 総合的な学習の時間
テレビ会議(CU-SeeMe)によるテーマ別
〜コミュニケーション能力の育成をめざして〜
グループ会議(分割交流学習)の試み京都市立有済小学校 山口 昌則
○はじめに
本校は,全校児童数39名の小規模校である。少人数のメリットを生かした活動で一定の成果もある一方で,話し合い活動や友達の活躍に刺激を受けて切磋琢磨しながら自分自信を振り返り高めていく機会が少ないといった課題もある。そうした小規模校の壁を破る手だてとして情報メディアの通信機能を活用した交流学習の在り方について研究を続けてきた。
今回は,大阪府松原市布忍小学校の児童といのちや人権について,それぞれの学校が総合的な学習の時間に学習したことをもとにテレビ会議ソフトウェア(CU-SeeMe)を使って,教室を擬似的に三分割し,各会議室に分かれた少ない人数でテーマ別にグループ会議を実施した。
本実践は,このテレビ会議によるテーマ別分割交流学習の有効性について提案をするものである。
○実践の概要
少年による殺害事件が多発する中,いのちについてみんなで話し合い考えていた頃に,ある児童が持ってきた一冊の手記から「なぜいのちは尊いのか」を考える総合的な学習「いのちの探求」がはじまった。
いのちの学習と一口にいっても漠然としていてあまりにも領域が広いので,科学的分野,社会的分野,倫理的分野,人権的分野に分けて共通の学習をいれながら,各自が課題別に学習を進めていった。
そして最終的に,「脳死移植グループ」「遺伝子治療グループ」「人権劇グループ」の3つのグループに分かれて追求活動をした。
その学習の成果を基に,「いのち・人権フォーラム」としてビデオ会議ソフトウェアを活用したテーマ別グループ会議の分割交流学習をした。
○コンピュータ活用の視点とその理由
以前より,テレビ電話による「テレビ会議システム」を使った交流学習を何度も実践し経験する中で,テレビ電話の学習場面での有効性については実感しており,これからもいろいろな学習場面に応じて有意義に活用していきたいと考えている。
しかし,テレビ電話によるテレビ会議システムでは,以下の3点について課題があった。
@ 三校以上(グループ別)の多地点交流をするには,物理的・金銭的な課題があり,手軽に活用することが難しい。……交流人数について A 代表者が発表したり,相互に指名し合ったりするといった一斉授業の形態の中で交流学習を展開していくことが多かった。(図1)……交流の形式について(学級対学級,代表対代表) B 同時に一つの教室で別々のテーマで交流学習を進めることが難しい。……交流内容について
そこで,今回提案する「ビデオ会議ソフトウェア」(CU-SeeMe)をポイントツーポイントの形式で活用することで,上記の課題を解決し,テレビ会議を使った交流学習の方法に選択の幅を広げ,さらに有効なテレビ会議を進めることができる(以下の2点)と考えた。
@ 状況に応じてグループのいろいろな組み合わせが可能になる。(図2) A 交流相手との距離感が縮まり,スピーチ型からトーク型のより親密な交流ができる。
以上のような特性を踏まえながら「ビデオ会議ソフトウェア」を使った「テーマ別グループ会議」を実践した。
○実践の詳細
インターネットで資料集め
総合的な学習の時間に各自のテーマに沿ってインターネットなどを使って資料を集め,まとめていく活動をした。
「いのち」についてたくさんのテーマがあり,考え方の違いも同じ位たくさんあるのだということに気付いていった。
そして集めた資料には,自分の考えをいれてまとめていった。
いのちについて交流会をしよう
意見の分かれるいのちの問題について,資料をもとにした自分の考えを大切にしながら,ほかの人の意見も聞いて考えを深めていく学習をした。
とりわけ子を持つ親の立場や大人からの意見など見方に広がりを持たせるとともに,いのちの重みについて親と子の話し合う機会を設けることで,いっそう親子の絆を深めてほしいという願いもあった。
また,保護者からの意見や励ましを学習の支えにしていきたいと考えた。
人権劇「竹中庄右衛門物語」に挑戦
かつて地域で学校に行けない子どもたちを何とかして学校に行かせたいと考え,私財をなげうって共同夜学校を設立した地域の人物を主人公にした物語を人権劇として発表した。
この人権劇を通して,いのちを大切にすることは,互いの人権を尊重することなのだということを訴えた。
ここでは,学問の大切さや学校へ行き勉強することは,どうして大切なのか等についても考えたりした。
ここで学んだことを人権面から総合的な学習「いのちの探求」でも学習を深め,「いのちの重み」についてみんなで話し合ったりしながら「生きる」ということについて考えていった。ビデオ会議システムによるテーマ別グループ会議「いのち・人権フォーラム」について
「人権フォーラム」にむけて事前交流
交流の打診から互いの自己紹介や学習内容などについてテレビ会議までに電子メールやビデオレターの交換,そしてホームページなどで事前交流を積み重ねていった。
児童にとっては,学習を通して他府県に友達の輪を広げながら学習を進め,友達との絆を深めていける喜びを味わっていたようである。
電子メールによる交流を重ねながら友情が深まっていくに従って,メールの内容も詳しくなり,個人宛ての内容など一対一の交流という形に発展し,返ってきたメールをプリントアウトしてみんなで見せ合っては,さらに意欲的に学習したりメールを打ったりしていた。
事前の交流が深まるにつれて,「早く会いたい,顔を見ながら話してみたい。」という声が出てくるようになり,より意欲的にフォーラムにむけた準備や学習の成果をまとめる活動をしていた。
@ 全体会
まず,それぞれのグループが予め決めておいた会議室に集まり全体会をはじめた。
全体会の様子は,それぞれの画面に6グループが集まって,簡単なあいさつや学習のめあての確認など順番に出しながら進めていった。
A グループ会議
ブース毎に自分達のテーマにそって学習の成果を発表しながら交流学習をはじめた。
簡単な自己紹介では,メールで仲良くなった友達に会えた喜びから親しく交流をはじめることができた。
予め用意した発表内容に沿って学習の成果を報告しあった。その報告を受けて質問や自分なりの考えを交流していった。特に,この場面で重要な相手の意見や質問に対して適切に「受けて応える」力が要求される。
双方の発表が,よく聞き取れるようにマイクのON・OFFを繰り返しながら交互に話すように工夫した。
B スピーチ型からトーク型の交流へ
画面との距離も近く,少人数なので傍観的にならず一人一人が参加意識を高く持って交流学習を進めていくことができた。
予め発表のための原稿や写真,グラフなどを準備していて伝えたい内容については,ある程度目的を達成していたようである。双方が,準備した内容について情報交換した後でフリートーキングタイムにはいった。
ここでは,「相手の発言を受けて応える」といった力が要求され,より高いコミュニケーション能力が要求される。
まず,相手の言いたいことを聞き取り理解して,自分の考えを簡単明瞭にまとめて返さなければならず,うまくできる子もいれば,シナリオのない展開につまりながら,がんばって応えようとしていた子がいた。
C グループ別の混声や時差への配慮
衝立を置くことで他のグループの音声は何とか遮断できた。分科会の終了時間の差を有効に活用するために,各自が交流のまとめをして時差の問題は解消できた。
総合的な学習「なすあり学習」活動案
いのちの探求…生と死について指導者 山口昌則6年
1.活動のねらい
年間を通して「いのちに関わる諸問題を人間の尊厳をベースに考え,生命尊重の精神を養う。」
1学期「いのちに関わる諸問題について出会い,自分なりの課題を見つける。」
2学期「いのちに関わる諸問題について見つけた自分なりの課題を追求する。」
3学期「いのちに関わる諸問題について自分自身の生き方と結びつけてまとめていく。」
2.活動目標
◎ いのちをとりまく現実とその現実を生み出す人間の心とのつながりについて自分なりに探求し,よりよい生き方をしていこうとする態度を養う。(関心・意欲・態度) ◎ いのちをとりまく諸問題を生命尊重の精神と自分自身や家族をはじめ支えてくれる回りの人との関係を振り返りながら,将来の自分自身の生き方や考え方について考える。(思考・判断) ◎ 学習を通して得たことを日常生活で具体的行動に生かすとともに,わかりやすく他の人に伝え表現する。(技能・表現) ◎ 「いのちの探求」の学習を通していのちの尊さについて気づき,いのちを取り巻く現状を正しく知り,いのち尊重の精神の意味を科学的,道徳的,社会的,人権的視点から理解し,共生社会における人間尊重の生き方を自分なりに見つける。(知識・理解)
3.主題設定の理由
子ども達を取り巻く教育環境は,社会情勢の変革による多様な価値観の中でますます厳しいものになってきている。とりわけ近年の少年犯罪に見られるいのち尊重の精神の欠落から来る短絡的な殺人事件など胸を締め付けられるような悲しい事件が後を立たない。
いのちは尊いものであると言う不文律な価値観に「なぜいのちは尊いのか?」という問いを「何のためらいもなくできる」という感覚をもつ子ども達が,なんとかして様々な角度からいのちというものについて考え,自分なりに「なぜいのちは尊いのか?」に対する答えを見つけ出し,これからの生き方と照らしながら互いのいのちを尊重し合い,人間の尊厳を弁えた生き方を実践できる人として成長してくれることを願わずにはおられない。
いのちに関する諸問題を生み出すのは人間であり,人間の心がこの現実を作り出しているといえる。
21世紀のいのちをとりまく倫理観や医療技術の進歩などの社会環境の変化の中で,いつの時代にも変わらない人間尊重の精神を自分自身の中にしっかりと持ちながらこれからの時代を生き抜いていってほしいと考える。
いのちに関する諸問題と言ってもあまりにも漠然としているので,いのちに関する問題を科学的分野・社会的分野・倫理道徳的分野・人権的分野にわけてそれらの学習を系統的に進めていくことにした。その中で自分なりの課題をみつけ,個別の課題解決学習をすすめながら自他のいのちを尊重できる生き方を見つけ出して実践できる人になってほしいと考えた。
人間の自己中心的な考え方が原因で起こっている様々な事件や利害の対立,社会問題など21世紀を創造していく児童にとって解決していかなければならない課題は多く多岐にわたっている。
ところが,自分自身の欲求を押さえてまで,現実の問題を解決するために考え行動しようとする人はまだまだ少ない。例えば,遺伝子治療や生体間臓器移植の問題など真剣に自分の問題として受け止めて考える機会は少ないのではないだろうか。
とりわけ本時で取り扱う脳死移植については,失われたいのちの重みと救われるいのちの重みの両側面からいのちについて学習を深めていくことができる。特に臓器提供者の側であり,失われたいのちを受け止める家族の思いがクローズアップされるため家族との結びつきの中で存在するいのちについても考えることができる。
「自分のいのちは,自分自身だけのもの」かもしれないが,一方では家族など自分自身をとりまく「大切な人と自分との関係の中で存在するいのち」もあるわけである。そうしたつながりの中で生きている自分自身のいのちの重みについても考えさせていきたい。その場合には,複雑化した家族観という価値観の多様化といった問題も存在するが,「いのちというものは唐突に生まれたものではなく人と人の関係の中で生まれ,育まれ,そして今の自分があるのだ。」といういわば「生かされているいのち」について目を向けてみる必要があるのではないだろうか。互いに愛し愛される経験を重ねながら生きてきた者にとって,その人との「死」という別れの中で考えさせられる「いのちの重み」は,理屈ではない「いのちの尊さ,はかなさ」を実感するものだ。
近年の医療の発達・核家族化に伴って実生活の中で,子どもが死と向かい合う機会は少なくなってきており,同時にいのちの尊厳を感じる体験も少なくなってきている。
そこで今回,実際に親やとりまく大人といのちについて語り合い,情報メディアを活用していのちに対する今日的課題について話し合っていく意義は大きいと考える。
こうした学習を通して,道徳的心情を高め,実践力を養いながら,情報リテラシーの向上を図り,個々の課題設定とその解決に向けた取り組みをしようとする態度を身につけてほしいと考える。
布忍小学校・有済小学校
「テレビ会議システムを活用した人権フォーラム」実施案
1.ねらい @ 布忍小学校と有済小学校の人権学習の成果を交流し,いのちや人権について認識を深める。 A 人権学習の交流を通じて両校の親睦を図り,よりよい人間関係を作り交流の輪を広げる。 B 交流を機会に今までの学習の成果を振り返り,学習してきたことを整理したりまとめたりする。 2.実施時期 2001年2月21日(水)5校時 13:45〜14:30(場合によっては,14:45ぐらいまでの延長ができるようにしておく。) 3.実施内容 人権・いのちの学習の成果について交流。 有済小学校:人権劇「竹中庄衛門物語」・総合的な学習「いのちの探求」より(人権の視点から) 布忍小学校:Try to the futureの取り組み・なかまより・広島修学旅行より(人権の視点から)
4.活動の案
5.配慮事項
@ 予め電子メールで布忍小学校児童に簡単な自己紹介と依頼メールを送り,交流の準備を進めるとともに交流を深めておく。 A 学校紹介と人権劇のビデオレターの交換などを通して両校の実態を概ね把握し,スムーズな意見交流ができるように情報交換をしておく。 B 本時の交流にあたって教師サイドで発表内容の概要を伝え合い,質疑応答について準備しておく。 C 発表内容は,相互に15〜18分程度で準備しておく。質疑応答を事前交流で知り合った相手同士を中心に進め,状況に応じて増減する。各発表に1〜2分ぐらいとする。 D 交流後,各校でまとめをする。(有済小学校は,電子メールで交流の感想をまとめて送る。) E 1教室を3つの会議室に擬似的に分けるため,衝立などで3分割し音声や交流内容が交錯しないように配慮する。(小人数化によるグループ交流のメリットを生かす。) F 予め,接続状況などの確認をしておく。・・・ここで交流の様子をイメージし打ち合わせをする。 G 指導案にしたがって実際と同じ状況で接続して最終確認をしておく。 ○児童の反応と変容,その後の学習への応用
- 「生かされるいのち」「失われるいのち」を見つめ,いのちの重みについて認識を深める
臓器移植の学習から,脳死を人の死と考えるかどうかについて考えた。臓器提供によって救われる人も臓器提供を前提に脳死判定を受ける人もどちらのいのちもかけがえがなく,いのちの重みについて比べようがない。遺伝子診断・治療や生殖医療など21世紀に出会う新たな「生と死の問題に関わる事象」を通して,いのちとは何かいのちの尊厳とは何かについて広く深く考えることができた。- いのちに関わる人権感覚の育成
「『いのちを大切にすること』とは,どういうことなのか。」について考える中で,いくつかある答えの中の一つに人権尊重の精神がある。児童にとってよりよく生きることは,どうすることなのか。自分を大切にすることや相手を大切にすることなど身近な人権意識を高める活動ができた。
遺伝子情報による差別,人権劇を通して学んだ一人一人が大切にされる教育の大切さと自覚,生まれ来るいのちと性の問題など「いのちと人権に関わる問題」について追求しながら学習を深めることができた。- コミュニケーション能力の育成
ビデオ会議システム(Cu-SeeMe)を使ったテーマ別のグループ会議といった他府県の児童との新たな交流学習の形態(テレビ会議による分割交流学習)を経験し,より身近に相手を意識しながら,対話形式の交流方法を学んだ。
この場合,より集中して相手の話を聞いて理解し,相手が何を伝えたいのか,何を尋ねられているのかについて判断して応えなければならないため,「受けて応える力」の必要性を認識させられ,課題を明確にすることができた。その後,各教科・特別活動などあらゆる機会を通して「受けて応える力」につながる学習や活動を工夫しながら実践を進めていくことができた。○今後の課題
今回,従来のテレビ会議では,まかないにくかった個別あるいはグループ別の交流を時間や場所を共有しながら,同じ教室で同時に別々のテーマでテレビ会議によるグループ会議などをすることが可能であることが分かった。この新たなメディアの活用方法を有効に活用するためには,以下の課題が考えられる。
@ 基礎基本に関わるコミュニケーション能力の育成
基礎基本的な国語力(表現力・理解力・言語能力など)をはじめ,人と交わる上でのマナーや言葉づかいなど社会性も含めて,全教育活動を通して,みんなが意識しながら取り組んでいく必要性を痛感した。
この課題は,生徒指導目標や同和教育目標はもとより学校教育目標に深く関わるテーマであり,伸び伸びとより豊かな交流学習を進めていくためには,その基礎となる豊かな人間性を育てることが,確かなコミュニケーション能力の育成につながるものと考える。A 高速通信網などの物理的メディア環境の整備
本校は,先進的教育用ネットワークモデル事業の協力校として光通信による1.5Mbpsによる常時接続の環境にある。
今回,交流相手の松原市布忍小学校も同事業に参加していたため同じ条件で交流を実施することができた。しかし,幅広い活用を考えたとき,まず学習テーマに沿った交流相手があり,次に物理的な環境が整っているかが問題になる。交流テーマなどの条件をクリアしても交流校に高速回線がなかったり,ネットワークが整っていなかったり,ソフト面対応が不充分であったりした場合には,互いにこのシステムがスムーズに使える環境を整える必要がある。
今後さらに情報通信に関わるインフラストラクチャー整備の進展が期待される中で,このシステムを使った交流活動の普及は,遠い未来ではなく広く実用化されるものと考える。
以上,このシステムの活用が,より豊かなコミュニケーション能力の育成につながる手だてとなるよう日々の教育実践との関連など振り返りながら,さらに研究を進めていきたいと考えている。