1.はじめに本校英文系では,平成8年からインターネットやテレビ会議システムを使って,海外のいくつかの高校と定期的な交流プロジェクトを続けている。海外の学校の学期との関連で毎年10月から翌年6月の半年以上にわたって行われるこのプロジェクトは,英語指導という観点から見ると,「自己表現型発表活動」を機軸として,英語を使う「目的」と「相手」を与え,英語を自分の言葉として使う機会をふんだんに提供する総合的英語学習活動である。また,教育活動の形態の観点から見ると,*「自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てる」ことを目指した「発信型・交流型」の教育活動である。このプロジェクトの詳細を報告する中で,このような教育活動の課題と可能性,その今日的意義を,21世紀に求められる新しい教育観に対する私見を踏まえながら検証していきたい。*「総合の時間」に関する教育課程審議会答申(1998年7月29日)から抜粋 2.プロジェクトの過去の経由とその概要 本校英文系で平成8年度から続けているこのプロジェクトは,例年米国の一校(カルフォルニア州バサディナ郡のBlair高校)とだけの交流であったが,昨年度は中国,メキシコの2校を加え4校,本年度はさらにフィンランド,オーストリアの2校を加え6校が参加してオンライン交流を行ってきた。昨年度から,高校生の国際理解・環境問題に対する理解を高めるような共通テーマを各国の参加高校生の意見を入れながら設定し[昨年度:Water
Quality(水質問題),今年度:Trash(ごみ問題)],それぞれの国の実状をそれぞれの立場で研究し,その内容をBlair高校に設置した共同ホームページサイト(URL:
http://207.217.172.76/ : 資料1参照)に英語で発表し意見を交流してきた。現在はeducation(教育問題)というテーマを中心に交流の準備を進めている。例年,交流の最終イベントとして行っているVideo-Tele-Conferencing(ビデオ会議システムを使った交流:以下VT:右写真参照)については,昨年(99年6月)は,NASAの協力もあり4校が参加したマルチポイントVTで行ったが,今年度は6月8日(木)に今までと同じくBlair高校のみと行った。(次年度は,中国を加えて3カ国のマルチポイントVTの準備を進めている。) 3.プロジェクトの年間計画この交流プロジェクトは,英文系の英語科目「国際理解」(2年生通年1単位,3年生前期2時間1単位)の中で,スピーチコンテストの準備,短期留学生との交流,その他各種講演会等の他の活動と平行して,授業の一環として毎年10月から翌年の6月にかけてほぼ半年をかけて展開している。年度において若干の違いがあるがだいたい以下のようなタイムテーブルで実施している。1) ホームページ,電子メールを使ったグループ別自己紹介交流,テーマ設定に関する意見交流(10〜12月) 参加を表明した各校の教師が,自分の生徒に意見を聞きながら,電子メールで連絡を取り合い,その年度の共通テーマを決定する。その後,参加各校それぞれで5つの小グループ分けと,グループ同士のマッチングを行い,電子メールや共同ホームページサイトで各グループのページを作って自己紹介交流を行う。また電子メールについて,本校では生徒には個人アドレスを発行していないので,参加各校の代表アドレスに教師が生徒の打ち込んだメッセージをグループ単位でまとめて送る形をとっている。 2) 共通サブテーマに基づくグループ別交流(翌年1月〜2月) 年明けにかけて,参加各国の教師が生徒に意見を聞きながら,共通テーマに関連する5つのサブテーマを設定する。マッチングをしたグループ同士で共通のサブテーマを担当し,電子メールやその内容に関して参加校各グループ同士で質問し合う交流を行う。過去2ヵ年のテーマ設定は以下の通りである。
3) 研究レポート作成と共同ホームページサイトへのアップロード(3月〜5月中旬) 2年生の最後の時間に毎年,以下のようなグループ課題を与えている。 「春休み中に自分たちのグループのサブテーマに基づいて実施調査を行い,それに基づいて休み明けに ホームページの形式を想定して文字,イラスト,写真等を入れ,B4縦書き数枚程度のレポートを提出する。」 そのレポートに基づいて,4月中の授業で各グループ内での作業を分担して,ホームページデータを作成する。以前は,文字データのワープロ打ち込み,イラスト等のイメージスキャナーで取り込み等の作業を生徒にやらせ,提出されたB4プリントによるイメージを参考にして教員がhtml化を行っていたが,一昨年より,ワープロ(MS-WORD)で直接作成させたものを教員の方でhtml形式に変換している。 そのデータを使って,5月中旬までそのデータを共同共同ホームページサイトにアップロードし,各国参加校のすべて生徒,教員が自由に閲覧できるようにした後,各参加校の共通サブテーマを扱った他校のグループのレポートを読んで,コメント,質問を書いて送る,そして,コメント・質問に答える等の交流を主に電子メールを利用して行う。この形式は,すべての参加校が本校と同じような密度で取り組んでいるわけでないが,参加校の多くが程度の差はあるがグループ別に調べた内容を各校のページで紹介している。 *昨年度,本年度の生徒作品は本校ホームページライブラリ参照: URL: http://www.edu.city.kyoto.jp/hp/murasaki/document/libraryData/library-j.htm 4) テレビ会議に向けての準備と実施(5月中旬〜6月上旬) テレビ会議の形式は年度によって若干異なるが,3ヶ国以上が参加するマルチポイントVTの場合,各グループがそれぞれのサブテーマについて事前に調べ,準備した内容を数分間で英語でプレゼンテーションする形を中心に行われる場合が一般的である。今年度は2校でほぼ一時間という充分な交流時間がとれたので,両校の5つのグループそれぞれで,若者文化についてなど,Trashの問題にとどまらない様々な内容について,簡単なパフォーマンスを行ったり,クイズ形式の交流を行ったりと様々な形での交流を行った。全体司会やグループごとの司会も生徒が行い,5つのグループが順次交流を行う形で行った。 今年度のビデオ会議は,日本時間6月8日(木)の午前8:30から約1時間(*相手校(Blair)は6月7日(水)午後4:30から)例年どおり本校LL教室にて実施された。使用機器は一体型 Phoenix mini Type S (NTT)。その他50インチ大型モニター,カメラ2台,マイク4本,スピーカーシステム,音声ミキサーを使用し,臨場感のある交流を目指した。 4.指導上の留意点このプロジェクトの実施にあたり,その様々な段階において以下に示すような指導上の配慮を行っている。1) 1年次からの系統的に行っている「英語で自己表現することに対する態度と能力」の育成 該当のクラスは1年次からwriting活動による自己表現の活動や,個人やグループでの英語による発表活動の機会をたびたび与えられ,英語を書くこと,発表することに対する抵抗が少ない。 2) 「動機付け」と「達成感」を経験させる工夫 「やりがい」や「達成感」の体験は,生徒の主体性,自主性の育成に大きな意義がある。そのために以下のような工夫を行っている。 a) 明確な,英語を使う「相手」と「目的」をあたえる。 サブテーマ,パートナーグループを設定 b) 発信,交流活動で相手から返信がある形をできるだけ増やす 相手の書いたものに対するコメント,質問する活動を常に奨励 c) 参加型・体験型の場面設定を目指す。 ビデオ会議の準備,リハーサル,その実施 d) 作品として残す。 ホームページサイトへのアップロード 3) コンピュータ操作の習熟 一年次の「速読演習」の授業の中でキーボード練習の時間を入れその習熟を図り,またMS-WORDを使ったwriting課題を適宜あたえることでその操作に慣れさせている。 4) テーマ設定への参加意識を高める工夫 テーマ決定の過程への参加意識を生徒にもたせる工夫として,各参加校が生徒の意見を集約し,何回かのステップで交流を行い,最終的に投票で決める形を採用している。また,その際,各国の参加校がそれぞれの立場で参加できるようなもの,高校生の学齢の若者が扱うのにふさわしく,かつ,彼らが興味関心をもって取り組めるものという観点での教師の適切なアドバイスが重要になる。 5) オンライン交流,Webでの発表物に対する危険性と責任に対する指導 自分たちの作品が誰からも見られることを意識させるとともに,出来るだけ資料の出典の明示を促す。また,電子メール交流ではネチケットについての若干の指導を加える。 6) 定期的な生徒の活動のmonitoring(活動チェック)と活動の「促し」と「励まし」 このプロジェクトのような体験型,参加型の指導の場合,教師の果たすべき役割もおのずと変化することになる。教師はfacilitator(活動の円滑化を図る人),coordinator(調整役),counselor(アドバイザー)であり,さらには生徒に対しては「共同参加者」という姿勢を示すことが求められる。具体的には,できるだけ機会をとらえて,ほめる,励ます,活動を促すということと,他の参加校からコメントがくる形をできるだけ教師同士でそれぞれの生徒に促すようにしている。 7) ビデオ会議の綿密な準備 3年前のビデオ会議の際,向こう側の音声が聞こえず,生徒たちが非常に残念な体験をした。最後のビデオ会議がうまくいくことが「達成感」の体験に必須になるのは言うまでもない。そのための綿密な教員同士の事前打ち合わせ,1週間前の同じ時間帯をめどにしたテスト通信が非常に重要になる。また,相手側への質問内容を事前に交流することがスムーズな質疑応答に役立つ。また,プレゼンテーションやパフォーマンスはできるだけ充分なリハーサルをすることを促している。 8) ビデオ会議の内容の充実 相手の顔,反応がリアルタイムで見られる点をできるだけ活用する。見て面白い発表,音,動きのあるパフォーマンスを入れることを促す。本年度の生徒たちは,日本の女性の髪型に関するクイズやミニファッションショーを行った。また,相手といっしょにやる活動(歌う,踊るなど)を入れることでsense of togetherness(一体感)を高めることが重要でなる。 5.生徒の評価と感想生徒たちはこのプロジェクトをどのように評価しているのか。ビデオ会議実施の翌週,アンケートを実施し,生徒の評価と感想を聞いた。結果について統計処理を行った結果(すべての項目について5%水準でχ2検定を行い,その結果の有為性を検証後,標準偏差,平均値をとった。)ほぼすべての項目で統計的に有意なプラスの評価が確認され,少なくとも「動機付け」と言う意味で一定の「効果」を裏付ける結果がでた。また,同時に書いてもらった生徒のコメントからは,様々な「感情」を体験した生徒の姿が読み取れる。自分と違う文化をもった海外の同世代の相手と生の声で直接交流することによって,「感激」,「驚き」,またあるときは「とまどい」,「失望」など様々な感情を経験している。自分たちの日常やっていること,思っていることが,理解してもらえたときは「共感」を感じ,また逆にそれが理解してもらえなかったとき,また自分たちが何気なく発言したことに予想もしない反応が返ってきたときは「フラストレーション」・「とまどい」を感じている。しかしそのことで多くの生徒が今まで気づかなかった別の視点に気づいている。またグループ活動に伴う様々な体験から,あるときは「フラストレーション」を感じ,また問題を乗り越えたときには「達成感」,「一体感」を感じている。またインターネットでの作品発表やテレビ会議等の"貴重な体験"を共有したという意識から「一体感」,「連帯感」,「達成感」も体験している。 このような体験は,このプロジェクトの過程で彼らが学習した様々な内容とともに,彼らにどのような変容をもたらす可能性があるのか,次で検証していきたい。 6.「新学力観」とNew Mediaを活用した「発信・交流型」学習活動インターネットやテレビ会議システム等のNew Mediaといわれるものが,近い将来,社会の基本的なインフラになり意識されなくなる時代がくるであろう。そのような時代に備えて,学校が与える"教育効果"の高いものをいかに身につけるかという能力よりむしろ,情報の荒波の中で自分を見失わず,自分の成長につながる形で正しく情報を活用していく力(情報活用能力)をいかに子供たちに身につけさせていくかということが様々な場で指摘されている。さらに,インターネットの普及により急速に進む国際化を考えたとき,この「情報活用能力」に加えて,異文化をもった人々の交信・交流の機会を通して,適切な「自己表現力」とそれに基づく「発信・交流能力」とともに「異文化理解(複眼的思考力と異文化に対する寛容さ)」の醸成を図ること,そして様々な立場の人々とのcollaboration(共同作業)を通して「共同作業適性」を培うことがまた重要になると考えられる。この「情報活用能力」・「異文化理解力」・「自己表現力」とその内容に基づく「発信・交信能力」・「共同作業適性」,そしてこれらが相まって培われる「自己学習力」。これらが新しい時代に向けての「学力観」を構成するものといえるのではないか。もちろん,いままでも重要な要素であった「自主性」・「自発性」・「独創性」というものがますますその重要性を増すことになるのはいうまでもない。このプロジェクトは,英語科の教科活動として行っているので「英語運用能力」の育成をめざしたものであることはいうまでもないが,ここで述べられるような「学力」の育成もその視野に置いて,その実践を続けている。 7.まとめにかえてこのようなプロジェクトが高校の現場では行われているケースは,残念ながら,まだ非常に少ない。そんな中で,このようなプロジェクトの実践を個人の実践にとどまらず,教科全体,学校全体にどのように還元していくかという課題はもとより,このプロジェクトのように参加型・体験型活動に対する「生徒の活動の評価・評定」をどのように適切に行っていくかという評価の問題など,今後も検討を続けていく必要があるなど課題も多い。さらに,生徒たちがこのプロジェクトを通して果たして本当に前述したような変容を見せてくれるのか,実際は彼らの数年後・十数年後の姿の中にしかその答えは見いだせないという不安も常につきまとっている。しかし,アンケートの分析結果や彼らの生の感想に見られるように,このプロジェクトの中で,時には失敗,軋轢,挫折を体験しながらも,それらのものを乗り越えて何とか作品を完成させた時や,イベントをやり遂げた時の「充実感」・「達成感」・「一体感」などの'成功体験'といえるものを多くの生徒たちが感じてくれていることを考えたとき,ここで得た経験は,少なくとも,彼らの中に「自発性」・「積極性」を育む一助になっていると信じたい。 数年前は筆者一人で始めたこのプロジェクトも,現在では,個人の実践にとどまらず教科全体,学校全体のものにして行こうという流れに向かっている。英語科では,筆者に加えて毎年,別の異なった教員が関わる配慮を行い,またどの教員でも取り組めるように技術的な面については情報教育センターの積極的なサポートを受けている。学校全体としても,平成15年度から「総合の時間」創設に向けての実験的な取り組みの流れを受けて,英文系以外の他の類・類系での取り組みを検討している。筆者も,このプロジェクトで得た経験とノウハウを生かし,その流れに積極的に貢献していきたいと思っている。 |