1.実践の概要「クレイアニメ」とは粘土(クレイ)を少しずつ変形させながら多くの画像を撮影し,それを連続して表示させることでアニメートさせる映像芸術です。花背第一中学校では今年,美術科の学習の一環として,新指導要領の「映像メディア」学習を先取りする形で「デジタルカメラを利用した『クレイアニメ』制作」に取り組みました。チームに分かれてそれぞれがストーリーやキャラクターを考え,キャラクターの活躍する舞台を作成し,粘土でキャラクターを造形し,それを少しずつ動かしながらデジタルカメラで数百枚の画像を撮影し,最後にコンピュータで編集して一本のアニメを完成させました。それぞれわずか3分程度の作品ながら生徒たちの創造性・自主性・造形力・想像力・根気・やる気・友だち同士の協力…のいっぱい詰まった夢のある作品に仕上がったと思っています。 2.コンピュータ等活用の視点とその理由一般的にテレビや映画館で放映されるアニメ(おそらく生徒たちが一番親しんでいるアニメ)は「セルアニメ」ですが,これは制作に非常に手間がかかります。背景と人物を別々に描かなければならないこと,どちらも作画に相当の画力が要求されることなど,中学生のレベルでは制作が困難です。一方,人物が演じるのであればビデオで撮影すればそれで事足りますが,現実に不可能なことを見せるためには大仕掛けなセットが必要となります。そこで,想像上の世界の動きを表現するためにはクレイアニメが最適であると考えました。しかし,コマ撮りのできるビデオ撮影機はあっても非常に高価であり,しかも撮影後の編集が大変です。良い方法を考えていているうちに,インターネットのホームページなどでよく利用されている「GIFアニメ」に思い当たりました。探してみるとGIFアニメを編集するソフトやそれをAVIなどに圧縮するソフトもフリーソフトやシェアウエアとして公開されており,これとデジカメを利用することで手軽にアニメーション作成体験をさせられると考えたのです。
3.実践の詳細●序章 「あっ,動いてる!」「ほんまや,歩いてるわぁ」−7月最後の授業(単元の導入)
●第一章 「おいっ,これは夏休みの宿題やぞ!」−9月上旬(展開@) 【授業の展開@(4h)】「ゾートロープを作ろう」 夏休み明けの授業。ゾートロープのアイデアとしてどんなユニークなものが出てくるかと楽しみに授業に出かけたら半数が宿題をやってきていない!!「おいっ,これは夏休みの宿題やぞ!」と語気強くしかったものの,よくきいてみると夏休み前の自分の説明も良くなかったようだと反省し,この日はもう一度動きをつくるコツや面白い動きの例を出してゾートロープの下書きをすることにしました。 いきなり清書に入ってこの日(2h)でゾートロープは完成し,クレイアニメのストーリー作りに入ろうと思っていたのが大きな誤算。これが文化祭直前の10月下旬に生徒たちに少々無理をさせ,しかし,その結果,逆に感動を作り出すモトにもなりました。 結局,2週間かけてゾートロープは完成しました。作品の一つ一つは紙面の都合でお見せできませんが「ブランコに乗る少女」「玉乗り」「逃げ回るトトロ」「よろめきながら歩くブタ」など楽しい作品ができあがりました。他の人がつくった作品をみんなでくるくる回してのぞき込みながら,生徒たちは「動画」の世界に入り込み出しました。
●第二章 昼休みも放課後も 9月下旬(展開A) 【授業の展開A(2h)】「ストーリー・キャラクターなど考えよう」 この日はクレイアニメの 「ストーリー・キャラクター・舞台設定シート」を描くこと を目標に取り組みました。夏休み前の課題があまりにも抽象的だったし,自分自身,夏休みにもう一度クレイアニメを試作してみて少々コツがわかったところだったのでもう一度 「面白いストーリーってどんなストーリー」 かを考えてみるところから始めます。生徒に聞くと 「どんでんがえしがあるやつ」 「弱いものが強いものを倒すもの」… などと出てきます。これらをまとめて「『起承転結』のある話を考えよう」と目標を設定し,その上で「ストーリー・キャラクター・舞台設定シート」を2人1チームで相談して考えさせていきました。ここでも宮崎駿氏のアニメ作成前の「ストーリーボード」を書籍から紹介しています。そして,私は相談しているチームの中に入り込んで一緒に「楽しい」ストーリーを考えていきました。 このときに注意したのは「それがクレイアニメで制作可能かどうか」という点です。粘土ですからキャラクターの動きはほとんど自由自在。特殊効果も工夫次第で色々考えられますが購入可能な材料と与えられた期間(撮影に使えるのは多く見積もって3週間)で作れるかどうか。「表現したいことと表現できること」のせめぎ合いをしながら完成までの見通しも話し合ううちに各班のストーリーボードが完成していきました。また,各班個性的なキャラクターやそれが活躍する舞台のイメージもふくらんでいったようでした。
【授業の展開B(4h)】 「クレイアニメの舞台を制作しよう」 私の方は先週の授業が終わってから回収した「設定シート」をもとに業者に舞台制作のための材料を注文しておきました。クレイのキャラクターが活躍する舞台の大きさは45cm×45cm。ベニアで台を作成し,それに発泡スチロール板を貼り付け,削って起伏をもたせます。その上に粘土を薄く貼り付けアクリル絵の具で着彩し,あとは草を植えたり,ミニレンガを積んだりして作成していきました。昨年の文化祭で「風景ジオラマ制作」をしたのですが,このとき残しておいた「カラーパウダー」や「ライケン」,コルク粒などが大変役立ちました。 生徒たちは昨年の経験を生かしてほとんど私の指示を待つまでもなく「○○(材料)はありますか」「××はパウダーを使いたいんですが…」とどんどん作業を進めていきます。前時までに舞台イメージをかなり話し合っていたことも理由の一つだったと思います。チームによっては地面の起伏を無くしそのかわり余った発泡スチロール板でお城の塔や城壁を作るところもありました。 2時間ずつ2回の授業でしたが,1回目が終わって2回目が待ちきれない様子で昼休みや放課後も舞台の保管してある部屋へ来てはちょこちょこと制作に励んでいる姿を私はほほえましく見ていました。 ●第三章 「うわぁ,動いたぁ!」 10月の授業(展開B) 【授業の展開C2h】キャラクターを作ろう! 10月に入り舞台もほぼ完成したところで粘土でのキャラクター作りを開始しました。これも初めに作成した「設定シート」をもとに行います。 用意した粘土はアメリカ製の色つき油粘土6色(赤,青,黄,緑,白,黒)。生徒たちはこの日を大変楽しみにしていました。中学生でも粘土で造形することはホントに楽しいようです。わいわいと作業が始まりましたがいろいろと問題も。まず,「思った色が自由に作れない」。例えば肌色が作れないと王女様のようなキャラクターの形作りに入れません。基本的な混色の仕方は指導してやりますがそれでも思った色にならず色作りだけで1時間以上費やすチームもありました。
でも,この日2時間かかっても時間が足りず,やはり昼休みや放課後にちょこちょこ作りに来ていました。 気がつくと舞台の上に新しく作ったキャラクターがちょんと乗っていたりするのです。 【授業の展開D2h】カメラワークと絵コンテ 「それぞれのチームがいいストーリーを考えました。舞台も出来ました。キャラクターも完成です。いよいよ撮影に…ちょっと待ってください。ストーリーや舞台,キャラクターが全部そろってもいいアニメにするためには『カメラワーク」が大切です。」 はやる気持ちを抑えさせてカメラワークの学習をしました。同じ舞台,同じ登場人物がいてもそれを「どこからどのように写すか」これで見る人の印象は大いに違ってきます。やはり「スタジオジブリ」の「風の谷のナウシカ絵コンテ集」を参考に「パン」「フォロー」「クレーンアップ」など基本的なカメラワークについて指導をしました。日ごろ映像を見る機会にあふれていても「よくあるシーン」を整理して学習することはまずありません。教卓に生徒の作った舞台とキャラクターを置き,実際にカメラの位置を示しながらさまざまなカメラワークを見せていきました。 2時間目。前時の学習をもとに,各チーム「絵コンテシート」にそれぞれのシーンの代表的場面のスケッチ,撮影のためのコメント,おおよその秒数を書き込んでいきます。本格的に制作しようとすると秒単位のカットを書き込まなければなりませんが時間の制約や能力の問題もあり,ここでは,全体をおおよそ4〜5部にわけてそれぞれのシーンの秒数を30秒程度に分割して書かせました。前回,あれほどにぎやかだった教室がしーんと静まりかえり,時々チーム内でしている相談の声が聞こえるだけの真剣な1時間でした。
【授業の展開E4h〜】撮影開始! 「うわぁ,動いた!!」 10月半ばになってやっと撮影に入れる準備が整いました。 最初に,ミニデジカメ講座をしてデジタルカメラの扱い方の簡単な学習をしました。デジカメが撮影するとき「カシャッ」と音(電子音!)をだすこと,目の前の舞台が3cm四方程度の小さな液晶画面に映っていること,その画面に画面サイズなどの情報が表示され,設定を変えるたびに「ピコッ」と音がすること…はじめてデジカメを手にする生徒たちにはそんなことすべてが面白いらしく「まるでゲームしてるみたいや!」と喜んでいました。
教室に個性的な4つのステージと三脚に固定された4台のデジカメが並び,ハロゲンランプに照明用の光が灯るとさながらスタジオのようです。いよいよ撮影に入り,キャラクターを動かすもの撮影するものなど役割分担をして撮影をしていきます。「カシャッ」「カシャッ」とどんどんメモリースティックに画像が蓄えられていきます。メモリーが一杯になると教室隅の私のノートパソコンの所にもってきてMOに保存します。それを私が「Animation Shop」というソフトでアニメにしてその場で動きを確認していきました。自分の撮影した画像が動いているのを見るとますますやる気がわいてくるようです。失敗した画像はその場で削除したり,制作しながら思いついた場面を後から挿入したりとコンピュータならではの編集をしながらどんどん撮影が進んでいきました。 …が,9月最初に2時間出遅れてしまったのがここで災いしました。私の見通しも甘かったのだと思いますが,休まずにどんどん撮影しているにもかかわらず11月の文化祭に間に合わない見通しになってきました。やむを得ず,おそるおそる「今度の休みの土曜日,学校あけるけど撮影に来るか?」と尋ねると全員が二つ返事でOK。その日は朝9時から撮影を開始し,全チーム撮影終了したのが午後1時半。4時間半にわたって一度も休憩をとることなく撮影し続けた生徒は,普段の授業ではすぐに音を上げるタイプの生徒でした。集中して疲れ切ってくたくたになりながらも大満足の表情で帰っていきました。 こうして完成したのが下の各作品です。
4.授業の流れと位置づけクレイアニメ制作の取り組みの流れを下ような表にまとめてみました。●取り組みの流れ (全21時間)
5.児童生徒の反応と変容,その後の学習への応用など●終章 「サンタさんにデジカメをお願いするわ」 単元最後の授業(まとめ)最後の時間にできあがった作品を全員で鑑賞しました。自分の苦労したところを説明する生徒,笑ってもらったり「すごい!」とほめられたりして照れる生徒,失敗したところを一生懸命弁解する生徒…さまざまでしたがどの顔にも満足感があふれていました。 感想を書かせたら「やってるうちにハマッてしまった」「最後まで楽しくできた」「全然疲れなかった」等々の言葉を残してくれています。文化祭でも上演しましたが地域の方や保護者の方から好評をもらって嬉しそうな表情をしていました。後に「感動体験作文」に取り組みましたがこのクレイアニメの取り組みを題材に選んでくれた生徒もいました。 最後まで熱心に頑張った生徒の中に普段,家でテレビゲームばかりしている生徒がいました。鑑賞会のあと彼に「こんどのクリスマスプレゼントはゲームソフトでなくて,『粘土』と『デジカメ』を頼んどいたらどうや」と冗談めかして言ったら「ふん,それ,それええなぁ」と真剣に親に頼んでみようという表情をしていました。 6.実践を終えて−今後の課題など私にとっても初めての経験でした。アニメには私自身強い関心があり以前から機会があれば何らかの形で取り組みたいと考えていました。そこへ,情報技術の進歩でデジカメとGIFアニメを結合させることで比較的手軽にアニメーション作成が出来ることに気付いて行った実践でした。あらかじめおおよその見通しをもって取り組み始めた実践でもありましたが,それでも毎週毎週次の時間のために解決しておかなければならない技術的な問題が生まれたり,アニメ制作やその周辺の基礎的な知識を生徒にわかりやすく指導するための資料を作成しなければならなかったことなど,ハラハラ・ドキドキ,苦心しながらの2ヶ月でした。が,結果的に「動画」に対する生徒たちの意欲に支えられて成功したと思っています。また,今回の制作には,ストーリー作成→舞台制作→キャラクター作成→撮影と全行程を行ったため期間が2ヶ月あまりと長くかかりましたが,粘土の色やストーリーに制限を加えることでよりライトバージョンのクレイアニメの取り組み形態も工夫できるだろうと思っています。 7.簡単な技術資料・使用機材一覧など
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