音羽の自然と歴史その16
伝承の秘薬“ためし金しょう丸”
明治の始め頃まで山科で売られていました有名な「牛尾山大蛇退治」の伝承があります。1313(正和2)年7月3日に,醍醐山から牛尾山の蛇ケ淵に数十丈(1丈は約3メートル)の大蛇がやってきて,牛尾観音の参拝の人もなくなってしまいました。そこで,小山の里に内海浪介景忠という弓矢の得意な武士がいて,これを退治に行きました。大蛇の様子を伺うと,大蛇はすやすやと眠っていたので,これはちょうど良いと思って,持っている弓に矢をつがえて,キリキリとひきしぼり,ヒューっと放つと,みごとに大蛇の首を射抜きました。大蛇はびっくりして,「蛇ケ淵」に退いて,あたりを睨みつけます。そのすきに,景忠が再び矢を放つと,今度は大蛇のまっただ中を射通しました。大蛇は激しく暴れ回りましたが,景忠は山腹に回り込み,大盤の石を投げつけると,ついに大蛇は死んでしまったのです。しかし,景忠は大蛇のうろこの毒にあたり,高熱が出て死にかけてしまいました。その時,どこからか仙人が現れて,景忠のために秘薬をつくってくれました。そのおかげで景忠は助かることができたのです。この秘薬は「ためし金しょう丸(がん)」と言って,内海家のみに作り方が伝わっていましたが,やがて山科の各地に伝わり,明治のはじめ頃まで御陵の「すずめ坂」あたりで旅人たちに販売されていました(写真は,今に伝えられている由緒・製法を記した書き物と,売られていたお店の看板です)
(記事 S.A)