ありのままの子どもの姿を客観的に捉え,共に歩むために
はじめに)
子供の変容を客観的に捉まえグラフ化することで誰にでも分かる形にし,指導者全員が子供の行動の変容を客観的に見て話し合い共通理解する研修を進めてきた。
「データ? グラフ? 私たちは,人の成長に関わっているのであって,人を対象にした実験をしているのではない!」 データ記録とグラフ化の話を聞いた時,指導者ならば一度は感じることである。しかし,ケース会議などで話し合っていると,ある子どもに対して,一人の指導者はよくなっていると思っているし,別の指導者はなんとなく悪くなっていると感じている,一人の子どもの捉え方が正反対であるということがよくある。私たちが目指しているのは,個別の包括支援プランをもとに,子どもの願いを大事にし,個々の子どもの社会で生きる姿を実現することである。それを進めるために,子どもをどうとらえ・どう実現していくか,子どもの姿・目標・支援・手だてをみんなで話し合い,日々実践を重ねている。しかし,この実践を進めるために,子どもの実態把握が,各指導者の主観に基づき異なっているようでは適切な指導を進めることはできない。客観的に子どもの実態を把握し,指導内容や支援の妥当性を客観的に評価し,子どもの行動の変容を具体的に捉え話し合い共通理解することが大切である。
今回,紹介する事例は,気になる行動に対する対応がほとんどである。本校では,『問題行動』とは決して呼ばない。自傷,他傷,破壊,パニック,こだわり,異食,逃亡など,大人の都合で見れば「問題」な行動かもしれない。これらの行動は,言葉の有無にかかわらず,「自分をわかってほしい」,「助けてほしい」,「○○したいんだ」という子どもたちからの精一杯の発信である。大人にとっての「問題行動」なのではなくて,子どもたちが「困っている」と訴えている行動なのである。そこで本校では,これらの行動を,「気になる行動」と呼ぶことにしている。
研修を進めるに当たって,「カリキュラムコーディネータ(学年主任)を中心に子どものことを共通理解し,カリキュラムコーディネータが担任の先生へアドバイスや支援を行っていくための研修なので,“ちょっと,やりやすそう”という事例を選ぶ」ということでスタートした。子どもたちが困っていることを解決する方法を,担任の先生と一緒に考えていくことが有効であると判断したのか,気になる行動への対応がほとんどであった。この他に,スプーンが使えるようになるケースとして『課題分析による取組』や,『コミュニケーション指導の取組』がある。
特に,気になる行動への対応については,20事例以上に取り組んだ。その取組の中で,大阪人間科学大学の谷 晋二先生のスーパーバイスを受けながら,その考え方や対応方法を整理してきた。今後の参考資料となるのではないかと考え,課題分析やコミュニケーション指導の事例も含めて,「気になる行動への対応 実践事例集」として残すこととした。
気になる行動への対応方法については,事例1「おふろ」と大声で連発するケースで,事例に即してその考え方や対応方法を説明するように試みた。
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