医療的ケア研修テキスト重症児者の教育・福祉、社会生活の援助のために


 

医療的ケア研修テキスト

日本小児神経学会社会活動委員会
松石豊次郎・北住映二・杉本健郎 編
定価 3150(本体価格 3000円)
CD-ROM

 

 

まえがき

1章 医療的ケアとは
 1 医療的ケアとその意義
 2 医療的ケアをめぐる対応の経緯
 3 違法性の阻却
 4 教員が行えるとされている行為
 5 教育的かかわりとしての医療的ケア
 6 2005(平成17)年度における通知

2章 呼吸管理 呼吸障害
 1 重症心身障害児者の主な随伴症状とその相互関係
 2 呼吸器系の構造
 3 呼吸と胸の動き
 4 呼吸障害の症状
 5 重症心身障害児者の呼吸不全
 6 重症心身障害児者の呼吸障害の諸要因
 7 誤嚥・分泌物の貯留
 8 呼吸障害の対策
 (1)のどを広げる―上気道狭窄への対応
 (2)胸を広げる・動かす―胸郭呼吸運動障害への対応
 (3)痰への対応―分泌物貯留への対応
 9 重症心身障害児者の呼吸障害の治療
 10 在宅用人工呼吸器
 11 排痰用の機器

3章 気管切開の管理
 1 気管の構造と機能
 2 気管切開
 3 事故と合併症
 4 対応と注意点
 5 呼吸障害

4章 摂食嚥下障害、経管栄養、栄養管理
 1 はじめに
 2 経口摂取と誤嚥
 (1)正常な摂食・嚥下
 (2)誤嚥の症状とその防御機構
 (3)摂食・嚥下障害の要因と誤嚥の特徴
 (4)誤嚥の防止のための配慮
 (5)誤嚥の評価と対応
 3 経管栄養
 (1)経管栄養法の実際
 (2)胃瘻(いろう)
 (3)空腸チューブおよび腸瘻チューブ
 4 水分・栄養管理
 (1)必要水分量
 (2)栄養所要量

5章 外科的視点からの経腸栄養管理
 1 重度の障碍に伴う二次障碍に対する包括的治療戦略
 2 胃食道逆流症
 (1)胃食道逆流が起こるメカニズム
 (2)胃食道逆流症の臨床症状
 (3)胃食道逆流症の診断
 (4)胃食道逆流症の治療
 3 経腸栄養
 (1)経口栄養
 (2)経管栄養
 (3)胃瘻
 (4)障碍をもつ子どもに対する経腸栄養のポイント

6章 間欠導尿法
 1 導尿、間欠導尿と尿道留置カテーテル
 2 間欠導尿法の適応
 3 間欠導尿の種類と歴史
 4 清潔間欠導尿法
 5 臨床症例から
 (1)症例1
 (2)症例2
 6 二分脊椎症の尿路管理ガイドライン
 7 清潔間欠導尿に使用している物品
 8 清潔間欠自己導尿法の指導方法について
 9 大手前整肢学園における清潔間欠自己導尿について
 (1)大手前整肢学園の25項目の清潔間欠自己導尿の手順
 (2)遵守度について
 (3)膿尿の出現頻度と遵守度
 (4)膿尿と導尿間隔
 10 清潔間欠自己導尿法のまとめ
 11 医行為としての位置づけ
 (1)日本二分脊椎協会の「二分脊椎症者からの声」
 (2)日本二分脊椎協会のアンケート調査
 (3)日本二分脊椎協会の今後の方針
 12 盲・聾・養護学校における痰の吸引などの医学的・法律学的整理に関するとりまとめ
 13 教育現場での清潔間欠導尿についての検討
 14 まとめおわりに―医療的ケア講師研修セミナー今後の課題

索引

付録CD-ROMの内容と取り扱いについて

まえがき

日本小児神経学会社会活動委員会
委員長 松石豊次郎

 「医療的ケア」講師研修セミナーは日本小児神経学会社会活動委員会の活動の柱をなすものである。社会活動委員会は、約3,300人の会員をもつ小児関連で最大の日本小児神経学会から社会にメッセージを伝える委員会である。本委員会は、社会との接点が多く最も構成メンバーの多い委員会である。
 社会活動委員会は、社会情勢の変化に対応して、20011215日の理事会で社会活動・広報委員会発足が提案され、20026月に正式発足し、障害児がかかえるさまざまな医療、教育、福祉、その他の社会問題に対応することを目的としている。その後20055月に社会活動委員会と現在の名称に改め、組織を変革した。現在は委員長、副委員長の他に全国の小児神経学会地方会から22人の委員、57人の支援委員を選出し運営されている。
 「医療的ケア」講師研修セミナーが企画された背景として、障害児の延命率が高まり、日常生活の範囲と教育および医学的な診療活動が重なり、子どもたちのQOLの向上などをめざして、学校での医療的ケアの必要性が高まったことがある。具体的には、痰の吸引、経管栄養注入、自己導尿の援助など養護学校での支援を必要とする障害児が増えたことが理由の一つである。それ迄は「医療的ケア」の指導は各地でばらばらで、科学的なエビデンスに基づいての学問、指導体系は不十分であった。学校現場、入所施設、家庭で指導する機会の多い小児神経科専門医への教育的な見地、統一したレベルの高い「医療的ケア」の幅広い普及の観点から本セミナーが開始された。
 第1回は20041123日に大津市で、第2回は200572日に仙台市で、第3回は200678日に福岡市で開催された。過去3回とも地元の小児神経科専門医の参加が多く、本セミナーのニードの高さが再認識された。セミナーの内容は、ほぼ一貫している。総論として医療行為と「医療的ケア」システム、国の考えと社会的背景の分析、小児神経学会の対応、紹介。教育の立場からの発表、障害児がもつさまざまな呼吸器系、摂食・消化器系、小児外科的立場からの指導、導尿、泌尿器科的問題等が取り上げられてきた。本セミナーの参加者の声として、発達障害児の「医療的ケア」の進歩と多くの科学的側面を学ぶ機会が得られ、新しい出会いと驚きの連続であったとの反響が大きかった。
 そのような背景から、今回の第3回のセミナーを契機に、きちんとまとまった本の出版が企画された。この本が全国各地で養護学校の校医や地域活動をされている多くの小児神経科専門医、小児科医および他職種の方々の知識および実践として役立てば幸いである。この時期に本書を発行することはタイムリーであり、しかも「CD付」で画像を見ながら自己学習も可能な画期的なものである。今後「医療的ケア」に携わる多くの医療従事者の指針となるものと思われる。また、今後ニードの高い看護職、養護学校の教師、施設職員などと連携し、障害児医療に携わる多くの専門職の方々の研修セミナーに発展することが期待され、障害児のトータルケアの向上に役立つことを祈念して巻頭のあいさつといたします。

(久留米大学医学部小児科)