広沢小学校の素足はだし教育について
京都市立広沢小学校
校 長 泉 裕 幸
1.
素足はだし教育の始まり
昭和60年4月に阪原幸夫先生が広
沢小学校の校長として着任されました。
当時は、「基本的な生活習慣を身に付け、健康で安全な生活ができる子どもに育てる」が学校の教育目標の一つとなっていましたが、広沢小学校の児童の実態を見ると、「朝からあくびをする子が多い。」、「姿勢が悪く、気をつけが出来ない子どもがいる。」など、健康生活面での問題がいろいろありました。
さらに、プール学習の時に、足の裏がブヨブヨになって血が出た子もいたために、これではいけない児童の健康の問題を真剣に考えなくてはいけない、とりわけ足の裏を鍛えなければということで、健康教育の柱として素足はだし教育がはじめられました。はじめられた当初は、具体的にどのような効果があるかは明確でないまま、先進校の取組を参考にしたり、校医の先生や専門家などの助言を受けたりしながら、試行錯誤のうちにすすめられました。
この年は、先ず、素足で靴を履くこと、運動場、体育館での体育を可能な限り素足で行うことからはじめられました。
そして、夏のプール開設時からぞうり履き通学を実施しました。
昭和61年度には、年間指導計画を立てて「素足はだし教育」の実践がすすめられました。そして、教室内では素足で生活することにしました。南校舎南側に足洗場を増設するとともに、足踏場も設置されました。
また、春と夏の運動会では、全種目素足で行うことになりました。
昭和61年度には、「朝の会の時間」を利用して、「3分間つま先立ち」が実施されるようになりました。
昭和62年度からは、「うるおいのある多様な学習活動」の事業の指定を受け、昭和63年度に中庭に芝生を張った「はだしのふれあい広場」を作って、素足で子どもたちが遊べるようにするとともに、足の裏を刺激する遊具や陶製のテーブル・椅子も設置されました。
2. 当初の児童や保護者の反応について
最初は、素足・はだしを、痛がったり、気持ち悪がったりする子どもがいました。
保護者の中にも、ぞうり履き通学や、素足で靴を履くことを「行儀の悪いこと」と受け止めをする人がありました。
しかし、しだいに素足で地面を踏みしめる心地よさや、窮屈な靴からの足の解放を喜ぶ声が子どもたちから出てきました。
また、「保健だより」での啓発や「素足生活の効用について」の医師の話などにより、児童や保護者の考え方もしだいに変わり、積極的な協力が得られるようになりました。
昭和61年3月の広沢小学校育友会の広報誌「広沢」に掲載された「素足に関するアンケート」によると、児童が素足についてどのように思っているか尋ねたところ、好きと答えた児童は、男子では63パーセント、女子では55パーセント、嫌いと答えた児童は、男子25パーセント、女子31パーセントと半数以上の児童が好きと答えています。また、「ご家庭では冬に向かって素足を続けさせたいと思いますか」との保護者への質問では、続けさせたいが64パーセント、思わないが30パーセントとなっています。このようにしだいに、肯定的な意見や感想がしだいに増えてきています。
この当時の保護者の意見や感想は次の通りです。(育友会広報誌「広沢」)
|
@ 足を洗わず家に入るので、家が汚れます。学校で足洗いを強く言って欲しいです。 A いいことだとは思うが、外と中の区別がないことと、怪我のないように注意してほしい。 B 素足だけでなく、すべての人工の物で囲まれた現在の環境を変え、自然の物にじかに触れ、その暖かさを、子どもに知らせたい。 C 素足・はだし、とても良いことと思いますが、登下校、授業中等は、靴を履き心を引き締め、体育の時間、自由な時に思いっきり素足になればよいと思います。 D 分かっていますが、児童個々、体質もあるので強制的にされるのは賛成できません。(自然に靴や靴下が履ける状態にして欲しい。) E 保育所でも薄着、素足の保育をされているのに、小学校に行きだして靴下の生活に慣れきってしまった。一家庭で一人取組むより、学校としての取組だと子ども達も受容れやすいので、是非、続けて欲しい。 F 素足ではけるぞうりの購入を考えて欲しい。 G 先日の参観日に、トイレから素足で飛び出してきた男の子を二、三人見かけましたが、汚いなあと思いました。 H 子どもが高学年なので、素足がいいといってもなかなか素足で靴を履こうとしない。以前(低学年の時)、学校の規則に違反するからだめだ、と言われました。もっと、以前から素足で登下校できればいいのにと思います。 I 素足なのか、はだしの教育なのかはっきりしない。 J 藁ぞうりを履くようにしてはどうか。 K 洗い場が少ない。 |
当時の広沢小学校では、こうした「素足はだし教育」の取組を進めることに
より、次のような成果がうまれてきましたと述べておられます。
|
@ 土踏まずの形成率が全校平均85.4パーセントとかなり高くなった。 A 運動会や体育の授業中に走っても転ぶ子どもはほとんどなくなりました。 B 保護者からも、「風邪を引いても早く治るようになった。」「精神的にたくましくなった。」との賛成する声が増えてきています。 C 4月から11月までの素足・はだし実施期間を過ぎても、自主的に素足はだしを実践する児童が増えてきています。 (教室内で素足で生活する児童は40パーセント、教室外でも素足に草履履きで過ごす児童も16パーセントいます。) |
3. 現在の素足はだし教育について
素足はだし教育がはじめられて、今年で24年目を迎えます。現在も広沢小学校では、健康教育の中心として「素足はだし教育」が連綿として続けられています。現在の素足はだし教育は、次のように行われています。
|
広沢小学校の素足・はだし教育 (1)素足・はだしが体によい理由について(児童への説明) @ 人間の足は第二の心臓と言われています。それは、心臓から出た血液は、下のほうにたまりやすく、たまった血液を足の筋肉が心臓に送り返すポンプの役割をしているからです。はだしになると、足の筋肉が鍛えられ、体の隅々まで酸素や栄養を送る体の働きが良くなるといわれています。 A 足には、体の働きをよくするたくさんの「ツボ」があります。はだしで歩くと、自然にこの「ツボ」が押さえられ、体にとても良いといわれています。 B はだしで歩くと、「気持ちよさ」や「冷たい」「痛い」などの刺激を感じやすくなります。そのことにより、我慢する心や豊かな心が育つと言われています。 C ぞうりを履いたり、素足で、常に「つま先立ち」をしていると、足の親指の力が強くなり、足の裏に縦や横の3つのアーチがうまく形成され、「外反母趾」になるのを防ぐことが出来ます。このようなアーチが形成されると足の裏のバネのような働きがうまく働き、転びにくくなったり、ケガをしにくくなります。 (2)素足・はだしの実施期間について 4月の「はだし開き」から12月の「はだし納め」まで実施します。 (3)素足・はだし教育の内容について @ 安全のため登下校は、靴を着用します。(希望者はぞうり履きでも可) A 教室内では、はだしで生活します。 B 教室以外では、ぞうり履きで生活する。 C 運動場は、はだしまたはぞうり履きで遊びます。 D E 運動場や体育館での体育の授業中は、運動種目の内容によって靴を着用します。 (4)毎朝、「3分間のつま先立ち」を実施しています。 (5) 「親指ジャンケン」や「ビー玉つかみ」や「つま先立ち大会」などの保健行事を実施しています。 |
4. 素足はだし教育の成果と課題
こうした取組の結果、次のような成果がみられます。
(1)土踏まずの形成について
体重をかけた状態でレントゲンを撮った時、舟状骨が内側にずり落ちて、土踏まずのアーチが崩れているものを偏平足といいます。偏平足は、足の裏の筋肉が弱くなったり、靭帯が弛んだり、過度の肥満によって起こるといわれています。
平成16年度の足型検査によると、本校児童の土踏まずの形成率は、右が88パーセント、左が88パーセントと左右とも土踏まずの形成率は高くなっています。これは、永年の素足はだし教育の成果とおもわれます。
(2)浮き指について
足に合わない靴やサンダル・ミューズなどを履き続けていると、重心の位置が後方にずれていき、結果として体に余計な緊張・負担がかかります。足の裏の様子を見ると、指に体重がかかっておらず、指が浮いた状態になっています。この状態が「浮き指」と言われます。
本校の児童は、平成16年度の足型検査によると、「右浮き指」がありが42パーセント、「左浮き指」ありが39パーセントと約4割程度の児童に見られます。
「浮き指」を改善するには、はだしで過ごす機会を増やし、歩く、走る、飛び跳ねるなどの運動を心がけることが大切です。はだしで土や芝生(草原)を踏みしめて遊んだり、遊びの中で足の指でタオルをつかむゲームや足指ジャンケンなどを取り入れたりすることもよいそうです。ぞうりやわらじを履くことも効果があります。
しかし、次のような点では、まだまだ課題も見られます。
(1)姿勢について
すぐに疲れたと座り込んだり、長い距離を歩いたり階段を昇降することを嫌がったりする児童が多く見かけれられます。また、授業中や給食中などの姿勢の悪さもあまり改善されているとはいえません。中には、検査の時にでさえ、きちんと気を付けが出来ない児童も見られます>
(2)運動や遊びにおけるケガについて
休み時間や放課後に、はだしで遊ぶ児童と靴を履いて遊ぶ児童とが混在しており、そのために、靴をはいて蹴ったボールが、顔面を強打したり、はだしでボールを蹴って足の指を骨折したりするなど、ケガがかなり多いようです。
こうした実態を受けて、教職員からも「体育の時に、靴とはだしが混じると危険を感じる。ガイドラインをもう一度、年度はじめに確認した方がよい。」とか、「登下校の安全面などもう一度話し合って、はだし教育を安全かつより徹底してできるように考えて行きたい。」などの意見が出ています。こうした校内の教職員の議論をふまえ、平成17年度からは、不審者や交通安全の点から、登下校時には靴を着用することにしました。
また、平成18年度と19年度の学校評価(外部評価)のアンケートでは、保護者から次のような意見が出されています。
|
平成18年度 ・靴通学に変わったことをうれしく思います。また、歯の健康に力を入れて下さっているので、助かっています。 ・夏の登校は靴でもぞうりでもどちらでも選べるようにして欲しい。 ・はだし教育の方法が変わって子どもともども戸惑っています。はだしで靴を履くととても嫌なにおいが靴に染み付くし、ぞうりのまま忘れて帰ってきたり・・・変更になった意図は親としてはよくわかるのですが、靴なら靴、ぞうりならぞうりといったことが子どもにとっては習慣づきやすいような気がします。慣れないものを使う時に子どもはケガをしたりすることもあるような気がします。 ・夏の暑い時には、以前のようにぞうりで登校できるようにしていただけると幸いです。子どもの足の発達、発育、衛生の面から考えると、ぞうりの方が健康的かと思うのですが・・・ 平成19年度 ・裸足、つま先立ち、草履ばき等々子どもの成長にいい習慣だと思っています。 ・今までみたいにぞうりで通学できるようにしてほしいです。(靴下をはくと足があついと言っている。) ・裸足、つま先立ち,ぞうり履き、子どもの成長にとても良い習慣だと喜んでいます。 |
保護者の意見としては、登下校時のぞうり履きについて賛成意見が多いようですが、@不審者が追いかけられた時にぞうりでは逃げにくい。A車が来たり、とっさの場合にぞうりでは動きにくい。など、登下校時のぞうり履きは、児童の安全面でいろいろと問題があり、学校としては靴の着用をお願いしています。しかし、保護者からの希望があれば、保護者の責任の元にぞうり履きを認めています。
また、単に楽だからという理由だけで、鼻緒のないビーチサンダルを使用したり、鼻緒を指でしっかりとはさんぞうりを履いていなかったり、「誤ったぞうり履き」も増えてきています。このようなぞうり履きについては、偏平足や浮き指の予防に何の効果もありません。学校では、たびたび児童に正しい履き方を指導しています。なによりも冬季は、教室でのはだしが冷たいこともあり、椅子の上に足を乗せる児童が多く、学習中の姿勢が悪くなったり、本来の目的から逸脱したりする状況も見られます。
永年の実践の中で、教職員も児童も「素足・はだし教育」の取組の目的とその具体的な実践内容かかなり不明確になってきています。
そこで、平成18年度には、「学校保健委員会」で「素足・はだし教育」の取組の見直しをするとともに、平成19年の夏季休業中には、素足はだし教育の研究をしておられる京都教育大学教授の井上文夫先生をお招きして、地域・保護者合同の研修会(学校運営協議会健康教育部会)を持ち、「素足・はだし教育と子どもの健康」というテーマでお話していただきました。
こうした研修会を通して、「素足・はだし教育」の大切さについて、科学
的なデータをもとに、今一度再確認するとともに、児童の実態や課題をふまえて今後、児童の健康自立に向けて、何をしていかなければならないかを教職員・保護者・地域の皆様といっしょに考えました。
本校では、今年度の「学校保健委員会」(学校運営協議会健康教育部会)で、本校児童の健康上の教育課題を次のようにとらえています。
|
本校児童の健康上の教育課題 @ 基本的な生活習慣については、「早寝・早起き・朝ごはん」など生活リズムが確立されていない児童がまだまだ多い。生活リズムは、学習面だけでなく、多動・きれる・集中力の欠如など情緒面での影響もいろいろとある。 A 体力の面では、全市と比較していくぶん高いとはいうものの、戸外での遊びがまだまだ不十分で、生活の中での運動の習慣が定着していない傾向が強い。とりわけ、家の中でテレビ・ゲームを長時間している児童も多く見られ、トラブルも発生している。また、部活動に熱心な児童もいる一方、全く運動をしていない児童もいる。運動をしていない児童へのはたらきかけが必要である。(体力・運動能力の二極化) B 食に関しては、朝ごはんを食べていなくて、朝から不調を訴える児童がいたり、食生活のアンバランスから肥満傾向の児童もいる。 C 健康に関する意識についても、衣服の調節や手洗い・うがいなどの習慣が十分根付いていない。くり返して根気強く指導していくことか大切である。 D 爪先立ちなど素足・はだし教育にとりくんでいるが、学習時間に姿勢の悪い児童が目立つ。そのために、目と本やノートの間隔が30センチ以上はなせていなかったり、視力低下につながる恐れもある。学習のみならず、健康生活・情緒面での影響も大きい。 |
健康教育においては、児童が自分自身の健康について考え、主体的に健
康的な生活を送れるような能力・習慣・態度を育成していかなければなりません。このような健康自立の育成をめざすには、「素足・はだし教育」のみならず睡眠や食生活など「基本的な生活習慣の育成」や「体力づくり」など幅広いさまざまな取組が必要です。「素足はだし教育」は、「偏平足」や「浮き指」などなくし、足の健康にとって大変重要な取組ですが、素足はだし教育の実践だけでは、健康な生活を十分に保障することは出来ません。
本校では、今後も「素足・はだし教育」を中心に本校の健康上の教育課題をふまえてその解決に向けて、さまざまな健康教育に積極的に取組んで行きたいと考えています。今後も保護者の皆様方のいっそうのご理解ご協力をいただきますようにお願いします。